scene-chapter1-15

chapter1-15
その洋食店は、入り口から見て左側にカウンターが6〜7席、右側に4人がけのテーブルが3つほどの、広くもなく狭くもないお店だった。
入ってすぐ左がレジになっていて、カウンター席正面の向こう側が厨房になっていて、オープンではなく壁で仕切られ、調理するところは見えなかった。
調理に興味を持ち始めたばかりの私は少なからずガッカリした。
だが、喜ばしいことがあった。ホールスタッフが二人いて、いずれもお姉さんで、そのお姉さんたちは、明らかに私のことを気に入ったようなのだ。
「あの子可愛い!」という二人のツブヤキを私は聴き逃さなかった。
『やった!』と私は思った。『良くしてもらえるかも!?』と思った。
中華料理店の御夫婦のように良くしてもらえると思ったのである。
計算高いガキである。
この洋食店はご家族で営んでいたと思われる。
想像だか、厨房にいるのがお父さん。レジにいるのがお母さん。そしてホールスタッフに娘二人。というのが私の想像である。
で、この姉妹は、あまり似ておらず、
上のお姉さんが『ウルトラマン』のフジアキコ隊員(知らないだろうけど)にソックリで、妹は『世界は二人のために』の佐良直美(知らないだろうけど)にソックリだった。
私はひとまずカウンターに座った。
計画ではハンバーグを食べるつもりだった。
と、いうのも、この数日前。
私は母に連れられて、銀座のデパートの大食堂に行った。
いわゆる『お出かけ』というやつで、
母は私を連れての『お出かけ』 は銀座と決まっていた。
銀座は父と母の思い出の地である。
デパートの大食堂は和洋食からラーメン、お子様ランチ、チョコレートパフェまでオールランドで、1960年代の子供達のパラダイスだった。
そしてその大食堂で、私は驚くべきことを知った。
それは、千歳船橋で40円の中華そばが、銀座では70円もすることであった。
それだけではない。ショーケースに陳列するメニューは、なにからなにまで高価だった。
だが、そのメニューの中で注目すべき一品があった。それがハンバーグである。
それは千歳船橋の洋食店のショーケースにも同じものがあり、その値段が格段に違った。つまり千歳船橋のハンバーグは安いのである。
『ハンバーグは千歳船橋で食べよう』私は心に誓った。
席に座ると予期せぬことが起きた。
お姉さんがお水と共に「こちら、メニューになります」と言って革のカバーで覆われた冊子を私の前に置いていったのである。
私はこのとき初めて『メニュー』というモンゴンを知った。
私は知ったような顔をし、それなりの振る舞いをしつつ、そのメニューを見てキョーガクした。
ハンバーグの値段は単品の値段だったのである。
ショーケースに書かれた値段は確かに一緒で、でもそれは単品価格で、そこにライスが付くと予算オーバーの値段になってしまう。
私は焦った。
早くオーダーしなければ、、。
そして決断した。
『ハンバーグはあきらめよう』
もう帰りたくなった。
だが、何も食べない訳にはいかない。
私はソッコーで予算内のメニューを探し出した。
そしてオーダーした。
「ウィンナーピーマンとライスをください」
これまで、見たことも聞いたこともないメニューである。
で、食べた。
コレガトッテモウマカッタ!
あああっ、哀愁の『ウィンナーピーマン』
今でも私の大好物である。
続く

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