scene-chapter1-12

chapter1-12

この頃、我が家の生計は、母がある企業の女子寮で、寮母の仕事をして立てていた。

寮は豊島区の駒込にあった。
予定では、私は祖母の家から、母が働くこの寮に移り住む予定だったという。
つまり母は、親子で住込むことができるこの寮で働き、祖母の家から私を引き取るタイミングを図っていたらしい。
それが父にバレて予定が狂った。母はムッとした。
だがまたいつ何時、父が私をカッサライに来るか気が気でならない。
すでにこの寮のことも父は嗅ぎつけている様子だった。
父は小技が効きズルイのである。
母は大技一辺倒だがタダシイのである。
寮に迷惑はかけられない。
悩んだ挙句、住み込みはあきらめ、私と母は千歳船橋の住民となリ、父から行方をくらますことに成功した。
仕事は寮母をそのまま続けられることになった。
だが母は始発の電車に乗って寮に出社し、21時過ぎに仕事を終え帰路につくという、ツライ日常を送ることになった。
とんでもない労働時間だが、「働けるだけマシ!文句なんか云ってられない!」と、母は私に幾度となく語っていた。
母は強く、そしてタダシイのである。
私はよく云われるところの『鍵っ子』という子供になった。
これは、両親が勤めに出ていて、学校から帰っても家に家族が残っていない境遇の子供のことを言い表したもので、私は正に『鍵っ子』の一員となったわけである。この生活の問題点は『食事』だった。
私は朝食は無し。昼食は給食、夕食は外食という食生活を余儀なくされた。
だが、この夜の外食は、愉快だった。
大人になったような気がした。
様々な体験ができて、とても楽しかった。
もっと面白くしようと料理も覚えた。
そして、
私は大人の世界に興味を持つようになる。
私は『鍵っ子』になったことで、何か大切なものをタクサン教わったような気がする。
続く

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